えー、久々に野球記事です。長く間が開いた理由ですが、私がブログから離れていたのもさることながら、われらがシアトルのあまりの弱さにまるっきり書く気が起きなかったからでもあります。開幕当初から、そんなに強いチームではないと思っていましたが、不運も重なりダントツの最下位です。
それはさておき、先日の試合(対デトロイト)で少し珍しいことが起こりました。控えキャッチャーのジェイミー・バークが急造投手として延長15回に投げたのです。その試合、当のバークによる1失点が原因となり、1−2で敗れてしまったのですが、そうは言っても急造投手。1点で済んだのであれば立派なものです。
ところが、この采配に一部メディアが「珍采配」と疑問符を付けました。「他に投手が残っているのに捕手を投げさせて敗戦した。」という論調です。一般の方の中にもネットを通じて(記事のコメント欄やブログなどで)それに同調する方がたくさんいらっしゃいました。ちょっと早とちりさんが多いかなとも思ったので、今回は MLB における通例や最近のチーム状況などを踏まえ、この采配が実際には珍采配ではないというお話をしようかと思います。
最初に。野手が急造投手を務めることは確かに少し珍しいですが、びっくりするほど珍しいと言うほどではありません。チーム誕生から約30年と、比較的歴史の浅いシアトル・マリナーズでも過去3回ほどあったそうです。
と言うのもまず、MLB では日本のプロ野球よりも投手が不足しやすいのです。MLB では(と言うか本来の野球のルールでは)延長は無制限に行われます。イニングや時間による引き分けがないので、両チームの点が取れないと延々試合が続きます。
この試合では(本来先発投手ではない)ローランドスミスが5回、その後はロウが1回、コーコランが2回、バティスタ先生が1回、グリーンが1回、そしてヒメネスが4回を投げています。残ったリリーフ投手は2名。ブランドン・モローとアーサー・ローズでした。
チームの状況も不幸でした。モローはこの5試合で4試合を投げる登板過多、ローズは試合開始時点で肩の違和感により登板回避が決まっていました。とても投げさせられる状況ではありません。
先発投手を使う手はどうでしょう? 実はこれも大変難しい状況でした。ここ最近は先発投手の故障による登板回避が多発しており、ローテーションを組むのもギリギリという状態です。(実際、普段はリリーフ起用のローランドスミスが先発をした訳ですし。)ここで先発投手を使うと、翌日以降の試合ができなくなってしまいかねません。
後日のチームの異動で対処する手は? これは監督が口を出せる領域ではないのもありますが、何よりそのために誰かをチームから外さなければなりません。たとえば先発のシルヴァを急造リリーフに出して、この試合ですでに4イニングも投げたヒメネスをいったんマイナーに落とし、緊急先発のできる投手、たとえばフィエラベンドを上げるといった感じでしょうか。うーん、チーム状況がますますがたがたになりそうですね。
こんな訳で、まずは「投手が残っていた」と言っても、非常に使いづらい状態だったのです。まあ実質的に残っていなかったと言っていいでしょう。
さて、こんな時にはどうするのでしょうか? すでに「特別に珍しいと言うほどではない」と書いたことからわかるかと思いますが、こういう場合にも一応セオリーがあります。普通は捕手が急造投手を務めるのです。まずは単純に肩がいいからです。
特に今回のケースでは、バックアップ捕手のバークがうってつけです。捕手であることに加え、もうひとつ理由があります。それは、野手による無調整の緊急登板で、ケガのリスクが高いことに関わってきます。
肩の良さからいうとたとえばイチローやベルトレイといった選手の名前も挙がってきます。実際、彼らも名乗りを上げたそうです。しかし、彼らが負傷してしまってはどうでしょうか? チームとしては、恐くて投げさせたくないのではないでしょうか?
この問いに対して城島健司はこう言っています。「じゃあバークだったらケガしてもいいんかい?」と。彼のこういう一本筋の通ったところは大好きです。しかし首脳陣が、高額年俸のレギュラーにケガをされるときと比べ、傷口が浅いと判断することは間違っていないでしょう。
とまあこんな訳で「捕手が急造投手として緊急登板」というのは、別におかしくも何もないオーソドックスな采配なのです。早とちりをなさらないよう、お気を付けくださいませ。もちろん、以上を踏まえて、それでも批判するならば、これは個人の意見ですから構わないと思いますけどね。