今日は――厳密にはきのうですが――お別れを告げに行きました。初めて出会った5歳の頃から30年近い付き合いになる広島市民球場に。試合日程から判断するに、たぶんこの日の中日ドラゴンズ戦がラストチャンス。だから、時間を作って思い切って行ってきたのです。
ちょっとセンチメンタリズムに浸りながら17時前に球場入り。席は SS 指定のオレンジシート(年間指定席の売れ残り。前売りや当日で販売している。)。少し早めに行って練習を見るところから、私の野球観戦は始まります。すでにドラゴンズの打撃練習がスタートしていました。
かなり日本のプロ野球から離れていたんですよね。去年から今年にかけて、球場に観に行くことはありませんでした。それどころか、テレビ中継すらほとんど見ていません。ですので、選手名が今イチ把握できなくて少し困りました。発表されたドラゴンズの先発投手は川井。誰やねん? いや、俺が無知なだけなんだけど。
……などという感じで見ていたのですが、このお別れの日に思わぬ贈り物をもらうことができました。それもたくさんね。
お盆休み中のナイトゲームということで、徐々に増えてきたお客さんは試合開始時にはほぼ満員です。いろいろと嫌な思いをするかなぁ……などと思っていたのですが、2年前と比べて応援マナーが格段に良くなっていてびっくりしました。たまたま今日だけだったのかもしれませんが、そうだとしてもそんな日があること自体に驚きです。
まず、鳴り物の音量が控えめで、応援はほぼ声援です。満員で盛り上がる中でも、ちゃんとバットにボールが当たる音や、キャッチャーミットにボールが収まる音が聞こえるのです。やっぱり野球はこうじゃなくっちゃ。私は鳴り物応援が嫌いで、また、試合に集中できない応援スタイル(いわゆるスクワット、メガホンその他)も嫌いです。その辺がすべて外野に陣取っていて、内野席にはいません。落ち着いて観戦したい人は内野へ。騒ぎたい人は外野へ。見事な棲み分けがなされており、これなら妥協できる範囲内です。
好き嫌い以前に迷惑(大きな旗を振るなど)という行為も、ひとつをのぞいてほとんど見られなくなっていました。唯一残っている大きな悪習は、試合開始前に相手チームのベンチ入りメンバーがアナウンスされる際に、コンバットマーチでそれを妨害する行為だけです。
他にもいろいろありました。7回表開始時には相手チームの応援歌である『燃えよドラゴンズ』が流れました。かつてグリーンスタジアム神戸(現スカイマークスタジアム)に観戦に行ったとき、7回表に近鉄バファローズのテーマが流れたことを思い出しました。そのときにこれは良いなと思ったものでしたが、広島市民球場でもそれをやってくれていたのを知り、驚きと感動を覚えましたね。いや、大げさでなく。
そして、試合のテンポがまた速くて良かったですね。元々、ブラウン監督が就任して以降のカープはテンポが速い試合が多くて好印象だったのですが、さらにリーグ全体で試合のスピードアップを標榜し、攻守交代の時にスコアボード横の大画面液晶にタイマーを表示するなどの明確な努力もなされています。日本のプロ野球はプロ以外や海外と比べて、かなりもたもたしていましたから、この動きは大歓迎です。
そして何より、試合がおもしろかったのですよ。こう言っては失礼ながら、実はあんまりそちらを期待してはいなかったのです。ここ数年、なかなか結果を残せない広島東洋カープというチームに期待していなかったという要素もあり、緻密なデータ野球を標榜する割に非科学的な言論が横行する日本プロ野球の不可解さという要素もあり、「たかが選手が」などの発言に代表されるいわゆる偉い人の考え方が理解できないという要素もあり、自然と日本プロ野球から気持ちが離れていました。
だけどこの日は好ゲームでした。そして野球の好ゲームはすべての要素をぶっ飛ばすくらいおもしろいに決まってます。
カープの先発、大竹寛は立ち上がりから球が高めに浮いてマズいかなと思いきや、時には球威で押し切り、時には適度にコースを散らして、あれよあれよとアウトの山を築きます。かつての大竹にあった制球難のイメージはあまり見られず、1四球無失点、そしてわずか3安打の見事な完封勝利を飾りました。球が走ってましたねー。最初は久々にプロの球を生で見たからかと思っていましたが、どうやら原因はそれだけじゃないようです。ナイスピッチングでした。
ドラゴンズ先発の川井進も巧みな投球術で途中までは見事にカープ打線を牛耳っていました。もちろん、まったく打てなくなったにもかかわらずドラゴンズの正捕手として君臨し続ける谷繁元信捕手のリードも大きかったのでしょう。カーブを巧みに使われ、なかなかヒットが出ません。両投手の力投により、試合は素早く、しかし重苦しく進んでいきます。(ちなみにこういう展開、たまらなく好きです。力、技、そして頭脳がフルに活用される場面ですからね!)
その重い空気を切り裂いたのは広島の1・2番コンビでした。6回裏、東出輝裕が二塁手デラロサのグラブをはじくセンター前ヒットで出塁すると、続く赤松真人が川井の失投を見逃さず、持ち前のパンチ力でバックスクリーンすぐ左のスタンドに飛び込む大きな2ランホームランを放ち、先制します。そして、7回裏2アウトからも彼らに活躍の場面が訪れました。まずは東出が2本目となるヒットをライト前に放つと、ライトの井上一樹のファンブルを見て取って一気に2塁を陥れます。このチャンスに赤松はまたしても直球をねらい打ち。今度はセンターを越える鋭い当たりを放ち、快足を飛ばして一気に3塁まで到達します。もちろん東出は余裕を持って生還。これで勝負はほぼ決したと言っていい貴重な追加点でした。
7回以降は勝敗という観点だけからすると一方的でしたが、ひとつひとつのプレイの中に楽しめる点が随所に見られました。たとえば内野守備。ドラゴンズの名ショート井端弘和はもちろんですが、ほんの少し前までザルと言われていたカープの内野陣もなかなか良い動きをしています。この日ショートとして出場した小窪哲也は、もしかしたらリーグ随一と評価されるほどの特別な選手ではないのかもしれませんが、本当に堅実で、送球も正確でした。守備範囲が広くは見えなかったサードのスコット・シーボルも、プレイ自体は丁寧でしたね。また、数年前は下手くその代名詞的な扱いだった東出も、去年辺りから守備の評価を急速に上げてきていましたが、見ていて確かに何の不安も感じませんでした。
とまあ、そんなこんなで。とにかくひたすら楽しい野球観戦でした。寂しい気持ちを吹っ飛ばしてくれたたくさんのおみやげにも感謝しつつ、広島市民球場に笑顔でサヨナラを告げることにしましょう。それじゃね。