では、追加問題の解説です。リクエストされた emi さんに限った話ではありませんが、追加質問があればコメントどうぞ。(あるいは「おかしいじゃないか」というのでも構いません。即興で作った問題ですから、どこかにミスがないとも言い切れませんし。)
【心理統計法】
XXI. 次の統計用語に関して不適切な記述は?
1) 相関係数を使用して相関の強さを検討する際には、無相関検定の結果も参考になる
算出された相関係数に有意差があるかどうかを検定するのが無相関検定です。この検定はサンプル数が多くなると、相関が低くてもいとも簡単に有意差が出るという弱点があります。したがってこれが不適切な記述。
2) 標準得点と偏差値は、本質的には同じ物である
データの値を変換して「平均値0、標準偏差1」にしたのが標準得点。同じような手法で「平均値50、標準偏差10」にしたのが偏差値です。
おまけの話ですが、大学の偏差値なんてものは存在しません。あれはどういうことかというとたとえば、「A大学は偏差値60=模擬試験で偏差値60の成績だと合格できる可能性が比較的高い(合格率60%が採用されることが多い)」というものです。BカップとかDカップとか言いますが、あれが女性の胸の大きさの指標ではなくブラジャーのカップのサイズであるというのと同じです。知性ある人間でありたいと思う人は「その大学の偏差値はいくら?」とか「胸は何カップ?」などという発言は避けるべきでしょう。なんというか、「インターネット、持ってる?」くらい恥ずかしい言葉です。
3) 因子分析はしばしば質問紙作成に利用される
利用されます。たとえば、性格を測定する質問紙では、多様な設問を分類して近しいものをひとつのグループにする(そして、それをひとつの特性と扱う)のに使います。
4) 比率尺度は、心理学ではあまり使用されない
データの中でいわゆる量的データと呼ばれるものについて復習しましょう。間隔尺度と比率尺度です。
ゼロの位置を動かしても計算上問題ないような場合は間隔尺度ですね。たとえば質問紙の得点で「当てはまる」「どちらとも言えない」「当てはまらない」というのは、3・2・1点と当てはめても良いですし、1・0・−1点と当てはめても良い訳です。こういう場合はゼロをどこに設定しても良いですよね。
比率尺度というのは、はっきりとしたゼロがある数値のことです。たとえば重さ(質量)や体積などです。重さの例で言うと 100g をゼロと定めるということはできませんよね。この手の指標が心理学ではいかにも使用されそうにないのはおわかりになるでしょうか? 強いて言うなら精神生理学の実験で生理指標を取るとき位じゃないでしょうか。心拍数はとりあえずはっきりとしたゼロがありますし。
XXII. 次のうち正しい記述は?
1) 順序尺度に用いられる相関係数は存在しない
よく使われるピアソンの積率相関係数は量的データにしか適用できませんが、スピアマンの順位相関係数なら順序尺度に使えます。
2) 分散分析は、下位検定の後に実施する
逆です。まず分散分析を行います。有意差が見られた時に、では具体的にはどことどこの差が有意なのかを見るのが多重比較(下位検定)です。
3) データのばらつきを見る指標として標準偏差が利用されるのは、計算の簡便さのためである
データのばらつきを見る指標としては他に平均偏差というものがあります。これは考え方自体は簡単なのですが、式に絶対値が含まれています。統計ソフトや表計算ソフトがなかった時代では、絶対値を計算するより平方根(ルート)を計算する方が楽だったので、標準偏差の方が広く使われるようになりました。というわけで、これが正しい記述。
4) t検定は、3つまでの平均値の差を検定できる
t検定は2つの平均値の差を検定するものです。
【精神分析学の理論】
XXIII. フロイトの理論について不適切な記述は?
1) 科学哲学による批判を受けた
まずポパーによって「反証不可能な仮説を持つ理論は疑似科学である」という批判を受けました。そしてそこからいろいろな議論が起きました。
2) フロイトの人格理論は治療理論から派生したものであり、彼の理論の中核ではない
これはフロイト本人の言葉です。さらに「もし間違いが見られたら喜んでそれを訂正しよう」とも言っています。
3) フロイトの提唱した概念は多数あるが、無意識もそのひとつである
後の人が「フロイトが提唱した」と思っているものの中には、案外フロイト以前からあったものが多くあります。無意識という概念はギリシア哲学の時代からありました。また、自由連想法もフロイトの発明ではありません。したがってこれが不適切な記述です。
4)人の心を意識、前意識、無意識に分類する
これは正しい記述ですね。ちなみに私は未だに前意識という言葉の意味がつかめずにいます。
XXIV. 次の人物−語の組み合わせのうち、最も関係が薄いものは?
1) ラカン−機能主義
ラカンは構造主義者です。したがって、この選択肢が正解。
構造主義と機能主義という言葉は対として使われますね。実験心理学の世界で言うと、ヴントら初期の実験心理学は構造主義的なアプローチ、行動主義の手法は機能主義的なアプローチと言えます。
2) アドラー−自尊感情
劣等感だとか権力の追求だとか、そういう自尊感情にまつわる言葉がアドラーの理論のキーワードになってきます。
3) クライン−対象関係論
メラニー・クラインといえば対象関係論。過去問頻出です。
4) ユング−アーキタイプ
アーキタイプは日本語で言うと元型です。元型もユングのキーワードのひとつですよね。
【心理検査の基礎】
XXV. 次のうち存在しない用語は?
心理検査でよく言われる「妥当性」という言葉の問題です。何かを測定するとき――心理学では、特に心理検査で性格を測定するときが典型的ですが――にちゃんと正しいものを測っているかどうかというのが妥当性です。ちゃんと測れていればいるほど「妥当性が高い」と言います。この妥当性という言葉ですが、細かく考えるといろんな要素に分かれます。
1) 成分内妥当性
これが存在しない用語です。適当な言葉をでっち上げるのに苦労しました。
2) 基準関連妥当性
「何らかの外的基準と関連か深いかどうか」という観点で見る妥当性のことです。たとえば、良い入社試験というのは、入社後の業績と上手くリンクしている物です。このように「入社後の業績」という外的基準との相関が高いテストは「基準関連妥当性が高い」と言えます。
3) 弁別的妥当性
理論上は関係ないものと比べて、ちゃんと関係ないかどうかを確かめる形で検討する妥当性です。たとえばうつを測定する検査を健常者に実施して、ちゃんと得点が低ければ「弁別的妥当性が高い」と言えます。
4) 構成概念的妥当性
妥当性の究極の形ですね。測りたい物(構成概念)をちゃんと測定できているかどうかという意味です。極論を言ってしまうと、構成概念的妥当性を完璧にすることはできないということはおわかりでしょうか? だって、それをちゃんと測っているかどうかを完璧に確かめる方法はない訳ですから(仮にあったとしてもその元の方を使えばいいですから、新しく何かを作る必要はなくなってしまいます)。
ですが、実は妥当性というのは「ある・ない」のどちらかではなく、「高い・低い」で表されるものです。つまり、十分に高い妥当性があれば、完璧でなくても許されるのです。理解を深めるという点で、これも知っておいて損はないでしょう。
なお、妥当性にまつわる各概念の説明、特に例示に関しては
村山航さんのサイト内の
「妥当性について」を大いに参考にさせていただきました。