2007年09月29日

基本的帰属錯誤

◆アラブでは何に気をつける?

 まずはちょっとしたクイズです。

 もしあなたがアラブに旅行に行ったとき、次のどちらにより気をつけないといけないでしょうか?
1) テロリストの破壊行為に巻き込まれること
2) 交通事故に遭うこと

 アラブというと、どうもテロのイメージが強いですよね。答えを1) だと思った人も多いでしょう。しかし答えは2) 交通事故の方です。なぜなら、アラブのいずれの国でも、テロによる死亡者と交通事故による死亡者とでは、はるかに交通事故の方が多いからです。外国に住んでいるわれわれは、どうしてもアラブの国々にテロのイメージを重ねがちですよね。偏見にならないよう気をつけなければなりません。

 このように、イメージに引きずられて判断を誤ることを基本的帰属錯誤と言います。

 では別の問題。ドナウ川の長さは1000kmより長いと思いますか? 短いと思いますか? まずどちらかを答えてください。答えはまだ明かしません。そのまま次の問題にいきます。では、ドナウ川の長さはどのくらいだと思いますか?

 かなり多くの方が、1000km前後の数字を答えたのではないかと思います。最初の問題に「長い」と答えた人は、1100kmとか、1050kmとか、1500kmとかそういう答えだったんじゃないでしょうか? 「短い」と答えた人は800kmとか、900kmとか、そんな感じではないですか? だいたい、95%くらいの人が、そういう風に答えるようです。

 これは事前情報としての1000kmがあったせいでそうなった訳です。しかし答えは、2860km。全然違うんですね。これも直前に与えられたイメージに引きずられて判断を誤る基本的帰属錯誤の例です。イメージといっても、別に広く一般に広まったイメージとは限らないと思ってください。もしも最初の質問が「500kmよりも……」だったらまた、違った答えになっていたことでしょう。

 また、事前に「1000kmよりも……」という情報がなかった場合、同じ間違えるにしても当てずっぽうになって、みなさんの答えが1000km付近に集中することはないはずです。こういうのは基本的帰属錯誤とは言いません。

◆いろいろな基本的帰属錯誤

 では、基本的帰属錯誤を起こしやすい状況というのは、どんなものなのでしょうか? いろいろと見ていきましょう。

 日本に普通に住んでいるとアフリカについての情報が少ないので、ついついアフリカといえば未開の荒野ばかりが広がっているかのように思ってしまいます。実際にはアフリカにもかなりの数の大都会があり、当然のことながら大都会では高層ビルが立ち並んでいます。でもそういった当然のことも、ついつい思い浮かばないものですよね。

 あるいは「精神病患者は犯罪を犯すから隔離してしまえ」というような過激な意見を耳にすることがあります。これは人権問題のことは別にしても誤りです。実際には、精神病患者とそうでない人の犯罪率とを比較すると、差はないのです。だからこの意見は典型的な基本的帰属錯誤によるものです。

 それから、何か強烈なイメージをもったエピソードがある場合。あるいはそれが連続した場合。たとえばマスコミの加熱した報道なんかがきっかけで発生します。女子高校生の売春行為(いわゆる援助交際)が初めてマスコミに大々的に取り上げられたときは、まるで女子高校生のほとんどが援助交際をしているかのように思っている人もいたようです。若者の犯罪が続出したときには、十把一絡げに「最近の若者は危険だ」と感じた人もいたようです。危険な犯罪を犯したことがある若者と、そうでない若者。どちらが多数派なのかはちょっと考えればわかりそうなものですが、それでもついつい基本的帰属錯誤を起こしてしまうことがあるようです。

 こんな例はどうですか? 「オタクのほとんどは不潔で、ファッションに気を遣わず、声が大きい。さらに言うならデブや眼鏡が多い。」これは真実だと思う人もいるかも知れませんが、これも基本的帰属錯誤です。というのも、たとえば東京の秋葉原などで「不潔でファッションに気を遣わない声の大きい眼鏡のデブ」を見たらオタクだと認識し、それ以外のオタクを(たとえば他の街などで)見てもその人がオタクだと気がつかないため、実際のオタク内での「不潔でファッションに気を遣わなくて声が大きい眼鏡のデブ」比率を過剰に見積もっているからです。

 うそだと思うなら、例えば秋葉でデブの比率を調べてみてください。どちらかというと少数派のはずです。で、単なるデブが少数派なのですから、不潔でファッションに気を遣わない声の大きな眼鏡のデブはもっと少ないに決まってますよね。眼鏡だって、眼鏡が多いのは日本人全体の傾向であって、日本人の眼鏡比率とオタクの眼鏡比率とを比べて、オタクの方が多いという証拠はありません。「目立つ」「特徴的」と「多い」は全然違うのです。

 これらの例を見て、だいたい似たようなパターンがあることに気がつきませんか? 実は基本的帰属錯誤を起こしやすいのは、一部を見て全体の傾向を言おうとするときなのです。「今時の若い者は……」「女ってやつは……」「日本人は……」「政治家は……」なんてことが書いてあったら、かなり怪しいと思っていいでしょう。だって、それを言っている人がちゃんと「今時の若い者」や「女」や「日本人」や「政治家」について綿密に調査しているとはとても思えないですから。逆に言えば、そういうことを言いたければちゃんと調査してから言わないと説得力がないのです。

◆“かわいそうな”女子高生に見る基本錯誤

 では最後に、以前私が発見した興味深い基本的帰属錯誤の例を挙げます。これは、新聞の投書欄に寄せられた、ある女子高生の文章を要約したものです。
 スーパーで買い物をしていたときに、突然中年の女性に跡をつけられ始めました。私は不審に思い、その人に「なぜ跡をつけるのか」と聞いてみました。するとその女性は「あなたたちみたいな女子高生は放っておくと万引きしたり悪さするからね。見張ってあげてるのよ。」と答えました。

 私はあまりの悔しさに涙が出ました。「女子高生は万引きをするものだ」なんてとんでもない偏見です。たいていの人は万引きなんてしないのです。それを大人たちも理解してください。
 この女子高生には同情を禁じ得ません。ここで登場した中年女性は明らかに基本的帰属錯誤によって、女子高生と万引きを結びつけています。同じような理屈が許されるとするなら、主婦の万引きもしばしば問題になっていますし、その見張りをやった人も見張られていいことになっちゃいます。

 しかし、おもしろいのはここではありません。実はこの女子高生も基本的帰属錯誤をしています。最後の文を見てください。「それを大人たちも理解してください。」とあります。この女子高生は、たまたまその変な中年女性に捕まったがために、「大人のほとんどは女子高生を万引き犯扱いする」という基本的帰属錯誤に陥ってしまったのです。そんな変な人、そうそういませんよね。

 基本的帰属錯誤は、人間認知の典型的パターンが引き起こす誤りです。だからある程度防ぎきれないんですが、気をつけたいものですね。
posted by Yosh at 09:19| Comment(1) | TrackBack(0) | つまみ食い心理学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この女子高生が「あなたたちみたいな女子高生」を「女子高生」に帰属錯誤している可能性もありかと。「あなたたちみたいな」が「女子高生」に対して、制限的なのか非制限的なのかに依るとは思います。「あなたたちみたいな」と「女子高生」のどちらのイントネーションが強かったかとか。
Posted by asdfgh at 2009年02月11日 06:40
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