2008年07月09日

【MLB シアトル】バックアップ捕手が急造投手になるのは珍采配ではない

 えー、久々に野球記事です。長く間が開いた理由ですが、私がブログから離れていたのもさることながら、われらがシアトルのあまりの弱さにまるっきり書く気が起きなかったからでもあります。開幕当初から、そんなに強いチームではないと思っていましたが、不運も重なりダントツの最下位です。

 それはさておき、先日の試合(対デトロイト)で少し珍しいことが起こりました。控えキャッチャーのジェイミー・バークが急造投手として延長15回に投げたのです。その試合、当のバークによる1失点が原因となり、1−2で敗れてしまったのですが、そうは言っても急造投手。1点で済んだのであれば立派なものです。

 ところが、この采配に一部メディアが「珍采配」と疑問符を付けました。「他に投手が残っているのに捕手を投げさせて敗戦した。」という論調です。一般の方の中にもネットを通じて(記事のコメント欄やブログなどで)それに同調する方がたくさんいらっしゃいました。ちょっと早とちりさんが多いかなとも思ったので、今回は MLB における通例や最近のチーム状況などを踏まえ、この采配が実際には珍采配ではないというお話をしようかと思います。

 最初に。野手が急造投手を務めることは確かに少し珍しいですが、びっくりするほど珍しいと言うほどではありません。チーム誕生から約30年と、比較的歴史の浅いシアトル・マリナーズでも過去3回ほどあったそうです。

 と言うのもまず、MLB では日本のプロ野球よりも投手が不足しやすいのです。MLB では(と言うか本来の野球のルールでは)延長は無制限に行われます。イニングや時間による引き分けがないので、両チームの点が取れないと延々試合が続きます。

 この試合では(本来先発投手ではない)ローランドスミスが5回、その後はロウが1回、コーコランが2回、バティスタ先生が1回、グリーンが1回、そしてヒメネスが4回を投げています。残ったリリーフ投手は2名。ブランドン・モローとアーサー・ローズでした。

 チームの状況も不幸でした。モローはこの5試合で4試合を投げる登板過多、ローズは試合開始時点で肩の違和感により登板回避が決まっていました。とても投げさせられる状況ではありません。

 先発投手を使う手はどうでしょう? 実はこれも大変難しい状況でした。ここ最近は先発投手の故障による登板回避が多発しており、ローテーションを組むのもギリギリという状態です。(実際、普段はリリーフ起用のローランドスミスが先発をした訳ですし。)ここで先発投手を使うと、翌日以降の試合ができなくなってしまいかねません。

 後日のチームの異動で対処する手は? これは監督が口を出せる領域ではないのもありますが、何よりそのために誰かをチームから外さなければなりません。たとえば先発のシルヴァを急造リリーフに出して、この試合ですでに4イニングも投げたヒメネスをいったんマイナーに落とし、緊急先発のできる投手、たとえばフィエラベンドを上げるといった感じでしょうか。うーん、チーム状況がますますがたがたになりそうですね。

 こんな訳で、まずは「投手が残っていた」と言っても、非常に使いづらい状態だったのです。まあ実質的に残っていなかったと言っていいでしょう。

 さて、こんな時にはどうするのでしょうか? すでに「特別に珍しいと言うほどではない」と書いたことからわかるかと思いますが、こういう場合にも一応セオリーがあります。普通は捕手が急造投手を務めるのです。まずは単純に肩がいいからです。

 特に今回のケースでは、バックアップ捕手のバークがうってつけです。捕手であることに加え、もうひとつ理由があります。それは、野手による無調整の緊急登板で、ケガのリスクが高いことに関わってきます。

 肩の良さからいうとたとえばイチローやベルトレイといった選手の名前も挙がってきます。実際、彼らも名乗りを上げたそうです。しかし、彼らが負傷してしまってはどうでしょうか? チームとしては、恐くて投げさせたくないのではないでしょうか?

 この問いに対して城島健司はこう言っています。「じゃあバークだったらケガしてもいいんかい?」と。彼のこういう一本筋の通ったところは大好きです。しかし首脳陣が、高額年俸のレギュラーにケガをされるときと比べ、傷口が浅いと判断することは間違っていないでしょう。

 とまあこんな訳で「捕手が急造投手として緊急登板」というのは、別におかしくも何もないオーソドックスな采配なのです。早とちりをなさらないよう、お気を付けくださいませ。もちろん、以上を踏まえて、それでも批判するならば、これは個人の意見ですから構わないと思いますけどね。
この記事へのコメント
プロ野球というのは、確かに一試合が全てではなく、ロングレース。
長い目で見た戦略が大切なのですね。
言い方は悪いですが、選手も「値段の差がある資産」。
リスクを減らす決断は、首脳陣がやらねばならない仕事ですよね。
私は野球の事はほとんど詳しくないのですが、
非常に興味の深く読ませていただきました!!
Posted by リエ at 2008年07月09日 11:03
なるほど。

そういうセオリーがあるとは知りませんでした。10年に一回の事にもセオリーがあるとは。さすがに歴史の違いを感じますね。

アメリカ人に「じゃあバークだったらケガしてもいいんかい?」と思う人が少ないといいんですけどねー。

僕は、プロスポーツがショウであるという本質を忘れて(あ、ショウが本質っていうのはただの持論です)戦略を練るのはオバカなことだと思っているので、そこだけが気になります。
Posted by Tz at 2008年07月10日 13:08
>リエさん
 意外な方からコメントがいただけたなぁ……と思いましたが、よく考えたらリエさんにはけっこうこの手の記事の感想、書いていただけていますよね。いつもありがとうございます。

 首脳陣の判断も、いつも難しいと思いますよ。あまり情報もたくさんは明かせないので、批判されても有効な反論もしづらいですしね。つらい仕事だと思います。

>Tz さん
 10年に1度ってのはチームでみた場合で、他のチームも合わせたら2-3年に1回くらいは見るような気がしますねー。

 今回の判断が正しいか、あるいは良いか、美しいかは別として、普通であることが伝われば、私としてはそれで十分だと思っています。文末に書いたように、そこから先は個人の見解でしょうし。
Posted by Yosh at 2008年07月11日 07:30
「バーク、あっぱれ!」が私の率直な感想です。
延長戦がさらに続くと仮定したら、残っている
ベンチプレイヤーを考慮すると、捕手のバークが
一番適役だったのかなとも思う。失点1に抑えた
だけでも立派かな!

個人的には(まったく娯楽的で無責任なセオリー)
早くて正確な送球をするエイドリアン・ベルトレのピッチングがみたかった。
Posted by チコ at 2008年07月14日 09:10
 そうですね。バークはよくやったと思います。そのことについて触れていた人はあまり多くはなかったですが、賞賛されてしかるべきですよね。

 偶然ですが、公式サイトトップページで「チーム一肩の良い野手は?」と投票が行われている真っ最中でしたね。ベルトレイ、イチロー、リード、そしてイバニェスが候補に挙がっていましたが、やはりベルトレイとイチローの2人でほとんどの票を稼いでいるみたいですし、多くの人は2人のことを思ったでしょうね。
Posted by Yosh at 2008年07月14日 13:33
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