舞台をコロラド州デンバーのクアーズ・フィールドに移して、ワールドシリーズは続きます。こちらもフェンウェイ・パークに負けず劣らずの曲者球場です。広いのですが、高地にあり(なんせコロラド・ロッキーズの「ロッキー」はロッキー山脈のロッキーですから)、そのため気圧の関係でボールがよく飛ぶのです。また、その対策として、通常より湿気を含んだ“飛ばないボール”を使用しています。普通とは少し違う環境というわけです。
2敗した COL が BOS につけいる部分はいくつかあると思いますが、その中で環境への対応をつくというのが有効かなと思いました。実際、第3戦の先発の松坂大輔投手は、チームから離れて試合前日に現地にやってきましたが、この特殊ボールの練習を許可されませんでした。野球は競技場の形が一定でないという少し変わったスポーツですが、特に MLB はそれを駆け引きの一部に使用することを是とする風潮があります。松坂は前哨戦でしてやられました。他にも中継ぎ陣の不調が伝えられましたが、ボールに一因があったのかもしれません。
また、ナショナル・リーグ側がホームになるので、指名打者が使えません。そのため、BOS は2番で大活躍しているケヴィン・ユーキリスを外し、普段指名打者を務めるデイヴィッド・オルティーズをファーストに回さなければなりません。ユーキリスは好守ともに活躍している選手ですから、これもかなりの痛手だと思います。
この辺りをきっかけに攻めれば、一方的になったシリーズの流れを変えられるかも……と思ったのですが、結果は以下の通りでした。
【第3戦】× COL 5−10 BOS ○
第3戦は松坂大輔とジョシュ・フォッグの投げ合いでスタートしました。松坂があの第1回 WBC のときのように見事アジャストして力投するのか、はたまたドラゴンスレイヤーが東洋の龍を狩るのか――そんな風に見ていました。
で、結果ですが、ドラゴンスレイヤーがついに倒されてしまいました。BOS 打線は不調のエルズバリーをなぜか1番に起用し、好調のペドロイアを2番に据えるという、一見すると不可解な形を取ります。しかしこれが見事に当たり、2人で10打数7安打4打点とその起用に応えます。新人2人がこれだけノリノリではもう、手がつけられません。3回表に一気に爆発します。エルズバリーのダブルをきっかけに、打者一巡の猛攻で6点を奪います。松坂に2ランシングルが飛び出したことがニュースにもなりましたね。
一方の松坂ですが、苦しみながら何とか結果を出したといったところでしょうか。6回途中2失点でした。やっぱりボールには苦慮していたんでしょうかね? その辺はわかりませんが、制球がやや定まらず、球数が多くなってしまいました。まあそんな状況でありながら、四球数は3つとそんなに多すぎるわけじゃないですから、要所は締めていたと言えるでしょう。この辺はさすがです。ただし長い回を投げられなかったことが、楽勝だったはずの展開に影を差します。
松坂の2失点は、実際には残したランナーを後続のハヴィアー・ロペスが還したものでした。その後はマイク・ティムリンが抑えるものの、そのティムリンが7回裏に2安打を喫して岡島にマウンドを譲ります。直後、岡島秀樹が3番ホリデーに起死回生の3ランホームランを浴びてしまい、6−5の1点差にまで詰め寄られました。BOS の中継ぎ陣はやはりズタボロのようです。さらに4番ヘルトンがシングルでつないだときには、岡島もさすがに危ないかと思いました。
が、ここから立て直したのはすごいの一言です。もちろん本人にはそんなことを考える余裕はなかったでしょうが、1点差だろうが勝てばいいのです。そこから集中力を切らさなかった岡島、その後を抑えきりリードを守ります。フランコーナ監督、ある程度の失点は覚悟の上で、それでも勝てる継投を意識したのかもしれません。現状ではそうせざるを得ないでしょうから。
8回表、そんな緊迫感を逆方向に破る一撃が出ました。またしても新人1・2番コンビです。1・2塁のチャンスからエルズバリーとペドロイアが連続でダブルを放ち、3点を奪います。これでほぼ勝負ありです。ちなみにエルズバリーの打点で7−5になったことにより、統計的には BOS の勝利確率は81%から93%に上昇しています。ほぼ、とどめとなりました。さらに9回表にもヴァリテックの犠牲フライで10−5と突き放し、COL の望みを絶ちます。
最後は8回途中から投げていたクローザーのパペルボンがまたしても登場し、ゲームを締めています。そろそろ壊れるのが心配になってきました。
COL は後がなくなりました。中継ぎ陣の不調につけ込んで反撃したはいいが、こちらも同じようにやられては意味がありません。
【第4戦】× COL 3−4 BOS ○
この日はある種の感動が球場を包んだ日でもありました。普段の野球の試合で味わえるものとはまた別種の感動です。第4戦の先発投手は BOS がジョン・レスター、COL がアーロン・クックです。レスターは昨年きら星のように現れた新人で、夏までにいきなり7勝を挙げるなど活躍した後、8月下旬に突然リンパ腫の宣告を受け戦線離脱。そのまま抗癌剤の治療を受けてがんを克服し、今季途中から見事な復帰を果たしています。一方のアーロン・クックも、2004年に肺に血栓ができて生死をさまよった経験があります。大病を克服した両者の投げ合い、独特の重みが感じられます。さらに BOS の5番、マイク・ローウェルも精巣がんを克服した経験があります。
良い試合でした。私がそういう目で見ていたからというのもあるかもしれませんが、良い試合だったと思います。レスターは若さもあってファストボールとスライダーとのコンビネーションのみで必死に抑えます。少ない球種と、良いとは言いがたい制球に、捕手ヴァリテックもリード面で相当苦労したものと思いますが、バッテリーはとにかく気迫で押し切ります。対照的にクック、トレアルバのバッテリーは老かいに打たせて取る投球を心がけ、失投も多少あるものの低めに決まるシンカーを決め球にアウトの山を築きます。
そして6回を終わって2−0と BOS がリードを奪います。好対照だったのが、BOS 側がレスターを6回途中無失点でマウンドから降ろしたのに対し、COL はクックを続投させました。両チームとも大変難しい決断だったでしょうが、結果としてはここが勝負の明暗を分けたようにも思えます。
7回表、この回のリードオフはマイク・ローウェルでした。クックの決め球のシンカーをねらい澄ましたようにはじき返し、打球はレフトスタンドへ。3−0とリードを広げました。これで、BOS 側からすれば、残り3イニングを2点以内で抑えればいい計算になります。うち1イニングはパペルボンがいるので盤石として、残り2イニングをいかに切り抜けるかがポイントとなるでしょう。
7回裏、デルカーメンからブラド・ホープがソロホームランを放ち2点差とします。反撃開始です。しかし8回表に COL は痛い失点をしてしまいます。クローザーの経験もあるブライアン・フエンテスが前日に続き打たれました。しかも、ここまで出番らしい出番もなかった代打ボビー・ケルティからの一発です。4−1です。
そうなると、8回裏はもちろんセットアップマンの岡島が起用されます。しかし岡島も前日と同じことをしてしまいました。1アウト後、ランナーを1塁においてアトキンスに痛恨の2ランホームランを打たれたのです。これでついに1点差です。岡島、クアーズ・フィールドでは散々でした。
BOS のベンチはあわてて(……いや、実はこれも想定していたようですが)守護神パペルボンにマウンドを託します。3連投、しかも8回1アウトからの1点差ゲームでの投入です。ちょっと無茶な気がしました。実際、少し危ない打球も飛びました。しかし、その危なげごとむりやり力で押し切ってしまうような投球でしたね。結果は5人の打者をパーフェクトに抑えています。最後は代打のスミスを高めのいわゆるクソボールで空振り三振に切って取り、ボストン・レッドソックスに3年ぶりのワールドチャンピオンをもたらしました。
勝ち投手は無失点のジョン・レスター、そして試合終了後にワールドシリーズ MVP に選ばれたのはマイク・ローウェルでした。2人のがんサバイバーが世界一をたぐり寄せたのです。今季最後の MLB の試合は、とても美しいものでした。
さて、ワールドシリーズが終わりました。日本のプロ野球は日本選手権シリーズ、そしてアジアシリーズが終わってこちらも終了。六大学野球も秋季リーグが終了し(うちとこにも優勝のチャンスがあったんだけどなぁ……)、今年の野球もほぼ終わりです。マスターズリーグは今季なぜか広島に来ないみたいだし。また来年の球春を楽しみに、しばし休眠しましょう。(あ、ちなみにオリンピックにはあんまり興味ないです。そっち方面の記事を期待していた人には申し訳なし。)