連戦はまだまだ続きます。今度はタンパベイ・デヴィルレイズ (TB) との戦いです。以前の対戦時でも紹介したかと思いますが、若く才能にあふれた選手の多いチームですね。たとえば4・5番を打つ B. J. アップトンやデルモン・ヤングはまだ22〜23歳です。また、元東京ヤクルトスワローズの岩村明憲が1番打者としてそこそこの活躍を見せています。
一方のわれらが SEA も、特にブルペンを中心に若い力が台頭したチームです。若さと若さのぶつかり合いとなりました……が、若さという言葉のイメージとは裏腹に、少しおかしな4連戦となりました。それでは戦評の方、どうぞ。
【第1戦】○ SEA 8−7 TB
連夜の劇的勝利となりました。前日の OAK 戦はいわゆるクロス・ゲーム(接戦)でしたが、この日は最終スコアこそ1点差であるものの、接戦と言うよりも大逆転劇と言った方がいいでしょう。スゴいゲームでした。
先発はウィーバー(本物)でした。いつも通りです。2回途中で5点を失ってマウンドを降りています。こりゃダメだなと思っていました。序盤で点差をつけられたのもありますが、相手先発のハメルが良かったのです。この人もいわゆる“将来を期待された”投手で、要は今のところ結果が出せていない選手なんですが、最近はその手の選手からことごとく当たりを引いてしまいます。やれやれ。
実際、イチローの第1打席もまるっきり合っていませんでした。そんなに大した変化球だとは思えなかったのですが、バットがくるりと回って三振。こりゃ厳しいなと思って見ていました。その後イチロー自体は見事に修正していますが、結局6回を投げて1失点と好投されます。(イチローが彼から唯一打点を奪ったのです。)
で、こちら側はウィーバーの後を継いだショーン・ホワイトも6回表に2ランホームランを浴びてしまいます。得点は1−7。4.1回を投げて2失点ですから、十分合格点と言えなくもないです。が、本来なら勝負を決する一打と言っていいでしょうから、打たれちゃいけませんでしたね。
その、中盤まではつまらん試合を我慢して見ていたら、終盤に意外な展開が待っていました。前日同様、強かった頃のシアトルが急に返ってきたのです。7回裏、相手投手がバルフォーに替わると2つの四球でヴィドロ、ブルームクィストが塁に出ます。ここでバッターは前日のヒーロー、ユニエスキー・ベタンコートです。またも期待に応えてくれました。ライト方向奥深くにに流し打つと、ワンバウンドしてスタンドイン。グラウンドルール・ダブルで1点を奪い、さらに1アウト2・3塁のチャンスです。2−7となりました。
さあ、イチローです。あなたがタンパベイの監督だったとしたらどうしますか? 敬遠しますか? おもしろい場面でしょう。私の見解は次の通りです。「もし、勝ちにこだわるなら敬遠だ。しかし、地区最下位の TB はここで敬遠すべきではない。勝てる可能性は十分ある上に、負けてもそんなには痛くない。緊迫した場面でイチローと自軍投手が対戦する経験は、今の状況の1勝よりも価値がある。」そして、シアトル側から見たら、ここで敬遠されたら、おそらくほぼジ・エンドでした。
ジョー・マドン監督が同じ考えだったかどうかまではわかりませんが、結論は勝負。良い決断だと思います。まあ裏目に出ましたけど。イチローの打球はショートストップの頭上をふわり。そしてレフト前にポトリと落とします。他の選手ならラッキーなヒットといった打球ですが、もちろん狙って打っていました。あのコースをヒットにするのに一番可能性の高い打ち方ですもん。ブルームクィストが還って3−7です。この回は続くベルトレイがダブルプレイに倒れ、回が終了しますが、望みをつなぎました。そして6回途中から投げている3番手ローランドスミスが8回表を3者連続三振で簡単に切ってリズムを作ります。
そして8回裏ビッグ・タイムが訪れます。2つの四球とシングルでいきなりノーアウト満塁のチャンスです。ここから「もしかして」という機運がチームに生まれてきます。まあおそらく、イチローや城島といったクレバーな選手は最初から想定していたでしょうけど。打席にはヴィドロ。しかしここで痛恨のダブルプレイ。1点は返したものの、2アウト3塁です。ただし4−7と、点差が詰まってきました。
チームはぐいぐいノってきます。打席には城島。この場面では一気に決めに行くのではなく、つなぐことを選びました。まあそりゃそうですね。ホームランでもまだ1点差ですから、つないで1点を取る方が上手い戦い方と言えるでしょう。教科書通りのセンター前シングルでもう1点をとり、5−7。この時の城島は冷静でした。そして代打、ジェレミー・リードがヒットでつなぎます。(ゴメン、ちょっと意外と思ってしまった。)2アウト1・2塁で打席に立つのはベタンコート。またしてもベタンコートです。
またしてもやってくれました。今度はレフト方向に2ランダブルを放ちます。1塁ランナー、リードの気迫あふれるスライディングもあり、ついに、同点です。そして2アウト2塁の場面でイチローに打席がまわってきました!
ああ、さすがにこの場面は敬遠ですけどね。でも、先ほどゲッツーを打ったベルトレイがリベンジしてくれました。勝ち越しのレフト前シングルです。ついに8点目。8−7となり、6点差をひっくり返してしまいました。
ベンチもわかっていましたね。この雰囲気。実は城島が打席に立っている辺りから、J. J. がブルペンで用意していました。9回表はもちろん“ビッグ・ガイ”J. J. プッツ登場です。相手打線は1番からの好打順でした。が、物ともせず。最後は恐い3番カルロス・ペーニャを三振に打ち取り、ゲームセット。J. J. の雄叫びが球場に響きました。
惜しむらくはこんな試合を優勝争いの中で……いやいや、もう言いますまい。奇跡は別に信じちゃいませんが、可能性はゼロじゃないことも把握しています。ソー・ソーで見ていきましょう。
イチローは素晴らしい活躍で4の3と1敬遠四球でした。ただ、もともとの打数が多すぎて打率は.351にしか上がりません。しかし2打点で大逆転勝利に貢献しています。ライバルのオルドニェスは試合がありませんでした。.358です。
【第2戦】○ SEA 2−1 TB
思わず息を呑むような緊迫した投手戦でした。連夜のビッグ・ゲームですね。ただ、私の目にはどちらかというと少し不思議な試合に映りました。こう言うと、実際に試合をご覧になった方は意外に思うかもしれません。でも、そう見えました。
先発はこちらが“キング”フィリックス・ヘルナンデス。そして相手がジェイムズ・シールズです。今季の成績はほぼ互角、やや相手の方が上といったところです。才能あふれる両者の投げ合いで、ものすごい投手戦になりました。
……と、言いたいところですが、見ているとどうもそう思えません。両者とも、何で打ち崩せないんだろう?? という印象でした。相手のシールズはしいて言えばチェンジアップが冴えわたっていましたが、配球はワンパターンに思えましたし、2廻り目くらいには打てるんじゃないかと思ったんですけど、結局ほとんど打てませんでしたね。8回をわずか4安打1失点に抑え込まれています。
その、1点も地味な取り方でした。5回裏、先頭の6番ヴィドロがライト方向へのダブルを放つと、7番城島はバントを試みます。(私のシールズに対する見立てが間違っているんですかね? ここでのバントは、要はシールズから得点を奪うチャンスはほとんどないという意味が込められているのですから。そして、結果はそれで正解でした。)実はチーム一バントが上手い(らしいです)城島、三塁線に見事に転がします。転がった打球は本当に線上を転がってフェアになりました。捕球したときには時すでに遅し。ヒットとなり、1・3塁のチャンスとなりました。で、次打者のブルームクィストがセカンドゴロダブルプレイの間にヴィドロが生還したのです。
試合は膠着したまま淡々と進みます。ヘルナンデスも、数字上は素晴らしいピッチングでした。7.2回を投げて6安打1失点、8奪三振ですからね。ただし、あんまりいつもと変わらないなぁという印象でした。「キング、ついに覚醒か?」と思ったのは今季、開幕戦くらいで、それ以外では好投したとしても味方の守備に助けられた面が大きいんですよね。この日もベルトレイ、ベタンコートらの好守、それに何と言っても城島による2度の盗塁刺が大きく影響していました。とは言え、7回までは結果を出していましたから良しとしましょう。
しかし8回表に捕まります。シールズと比べてここまで球数の多かったヘルナンデス、この回にランナーを2塁に置くピンチを迎えます。それでも2アウトまでこぎ着けましたが、最後には9番ヴェランディアに同点となるダブルを打たれてしまいました。なんというか、微妙に勝負弱いんですよね。そこが少し不満です。さらに続くピンチに打順は1番に戻って岩村明憲です。左打者ですし、すでに113球も投げていたこともあり交代が告げられました。球場はスタンディング・オベーションでしたが、やはり本人がいちばん不満だったんでしょうね。わずかに帽子こそ上げましたが、うつむき加減でダグアウトに戻ってきました。
ここで出てくるのはもちろんジョージ・シェリル。ここまで打率.280台、ホームランも7本と、おそらく本人にとってはやや不本意な成績とは言え、実力からすると恐い岩村に対し真っ向勝負です。正直、この打席がいちばん見応えがありました。シェリルの直球とスライダーのコンビネーションは「勝負してる」って感じで好きなんですよね。見事に三振を奪い、追撃の芽を摘みます。
ただし、嫌な形で同点に追いつかれました。だって、ベンチの見方は「シールズは打てない」なんでしょう? 8回裏開始時点で投球は80球そこそこ。まだまだ球数にも余裕があります。このまま完投されそうで、実に厳しいです。
打席には7番城島。この日の影のヒーローは城島だと思っています。5回のバントヒット、2回の盗塁刺も好プレイでしたが、この打席が何と言っても非常に大きかったです。ホームランでも打ったのかって? いえいえ、違います。単に四球を選んだだけです。それも、結果として得点にはつながりませんでした。しかし、シールズ相手に粘りに粘って、10球以上の球数を投げさせたのです。確か、この打席で球数が95球に届いたでしょうか。こうなると相手ベンチも継投を選ばざるを得なくなります。そして、それが勝負のアヤとなりました。
この回は上にも書いたように得点にはつながりませんでした。代走ジマーソンが、1アウト2塁のケースで痛烈なレフトライナーに飛び出し、戻りきれずアウトになってしまったのです。レフトのゴメスの送球も良かったですが、若いジマーソンには焦りがありましたね。これも勉強でしょう。
同点ですが、9回表には J. J. プッツが登板しました。今季2度目の3連投になります。この日は2番からの好打順です。……が、まったくものともしません。2番ノートンをキャッチャーフライ、3番ペーニャを前日に続いて三振に打ち取ると、今季急成長した若き4番 B. J. アップトンも三振に切って取ります。さあ、後は反撃を待つのみです。
さて、城島のせいで継投を選ばざるを得なくなった TB ですが、2番手にはグラヴァー(元読売の投手で登録名はグローバーでした)が登場します。裏の攻撃なのでクローザーが出しづらいのもわかりますが、あれ? もうちょっとマシなピッチャーを出した方が良いのでは? と思いました。(真相は、「このチームにはマシなピッチャーがいない」だったようですけどね。)さすがにシールズとは全然違いますね。
先頭のイチローはここまでヒットがありません。しかし、やはり格の違いを見せつけます。初球を簡単にセンター前にはじき返し、塁に出ました。ここで勝ちを確信した人も多いんじゃないでしょうかね。塁に出て無言のプレッシャーを与えるイチロー。フルカウントからグラヴァーが投じた球はやや高めのボール球だったでしょうか。走るイチロー、そして打席に立つベルトレイは半ば強引に、しかし不思議な巧さで一二塁間を抜きます。見事なヒット・エンド・ランが決まり、ノーアウト1・3塁。打席には主砲ラウル・イバニェスを迎えます。この、派手さはないが寡黙な仕事師は、ある意味らしい打球を放ちます。ショートへの緩やかなゴロ。イチローの生還を狙った打球です。ただし打球方向を見たイチローは、ノーアウトであることも踏まえて冒険を避けます。3塁に留まりました。結果は、投げるところなし。内野安打です。
満塁で4番にまわってきました。ホセ・ギーエンです。フリー・スインガーと称されますが、今季の優勝争いの中で意外とシチュエーショナル・バッティングも見せてくれているように思えます。この打席も、じっくり見てフルカウントに持ち込みました。押し出しでも、内野ゴロの生還でも、外野フライでも構いません。とにかく、1点取ればいいのです。ギーエン、ねらい澄ましていましたね。アッパースイングでの打球はライトの定位置よりも少しだけ深めに飛びます。ライトのデルモン・ヤングが捕球のために足を止めましたが、勝負ありです。世界中のどんなライト・フィールダーであっても、この位置からイチローを刺すことなんてできっこないのですから。終盤での競り合いに終止符が打たれました。
どんなチームスポーツにも流れというものがあります。人間がやっているのだから、当たり前ですよね。各人は常に全力を出そうとはしているはずですが、そこには流れに乗ったり、飲まれたりということがプロですらどうしてもあります。スポーツの中でも野球は、その流れの変わるきっかけが本当に微妙だったりします。必ずしもホームランや連打、三振ショーばかりとも限りません。また、テレビの解説者が言うようなバントの成否やエラーばかりでもありません。
この日の流れは9回をのぞいて、ごく緩やかにいったり来たりを繰り返していた感がありました。これが、私がこの試合を不思議と称する理由です。普通、こういうスコアの投手戦だと、両チームの投手がまるで流れの綱引きをしているかのようにピンと張った感じに見えるものですが、この試合ではだらんとした綱が見えたような気がしたのです。そのゆるんだ綱を、城島が隙を見て何度かピッと引っ張ったのが、勝ちにつながったんじゃないでしょうか。プライベートでは釣り人の彼、いいフィッシングっぷりでした。
イチローは最終打席のシングルのみで4の1です。打率は.351ですね。オルドニェスは.357です。
【第3戦】× SEA 2−6 TB
先発投手のマッチアップを見た瞬間に、負け確定かなって試合でした。まあ何と言いますか、予想を裏切らないというか予定通りというか。あちらがエースのスコット・キャズミアーで、こちらが炎上王のホラシオ・ラミレスですもん。
ラミレスは1回表、いきなりの4失点でワンアウトも取れずに降板しました。まあ失点の一部は後続が還したランナーじゃああるんですが、そもそもここまでのふがいない成績の上に4者連続出塁を許したら、ここで降板を指示されてもやむを得ないですし、そうなるとブルペンでの準備も当然十分な時間はないでしょう。これは純粋にラミレスの責任と言って構わないかと思います。ちなみに2番手のカンピーヨがブルペンで準備を始めたのは、3番ペーニャの打席が始まったときのようです。
で、相手投手がキャズミアーですから、さすがに2日前の再来とは行きませんでした。3安打1失点11三振に抑え込まれてしまいます。ただし、6回で降板しています。その後に出てくる大したことない投手陣を打ち崩せなかったのは残念です。
ちなみに城島はこの日も盗塁を2つ刺しています。阻止率.446はリーグダントツトップです。あまり他チームの試合を見ないのでもしかしたら的外れかもしれませんが、実は密かにゴールドグラブ賞を取れるかもしれませんね。守備イニング数1027.2回、捕逸5個、守備率.997はそれぞれリーグ2位、3位、1位です。試合を見ていても、去年のような捕球がおぼつかないという様子は見られなくなり、荒れた球が暴投になるのもよく防いでいます。イチロー、ベルトレイと共に期待したいですね。
まあ、見どころの少ない試合でした。とは言え、ようやくホラシオ・ラミレスに先発失格の烙印が押されました。もっと早ければ……って感はありますけどね。
イチローは4の1です。打率は.350となりました。オルドニェスは.356ですね。両者とも、本当によく打ち続けます。
【第4戦】× SEA 2−9 TB
酷い凡戦となりました。序盤のウォシュバーンは最高に近い出来だったんですが、回を追うごとにだんだん今イチになってきて、5回途中でマウンドを降りています。やっぱりスタミナに難がありますね。先発がゲームを作れないようでは、なかなか試合に勝てるものではありません。それこそ、第1戦みたいなことは年に1度くらいしかないものです。
後続のヒューバー、オフラハティ、グリーン、パリッシュも点を取られ、結局9回を投げたホワイトのみが無失点というぐずぐずのゲームでした。このチームのブルペンが強力ってのは、幻想だったんだなぁと今となっては思いますね。早起きしてまで見て損しました。
相手先発のソナンスタインは将来性豊か(中略)またしても当たりを引いてしまいました。というか、このレベルの投手に対して、同じような余裕のなさで打席に立つ選手が多すぎる気がしますね。仮にもビッグ・リーグの先輩なのですから、相手を呑んでかかっていくべきでしょう。ベン・ブルサードとか、どっちが新人なんだかわからないような打席の立ち方でした。
イチローは3打席ほどまわってきて、2打数2安打となりました。全打席出塁したものの、珍しいことにピッチドアウトに引っかかっています。ここ最近見せる「らしくないプレイ」が今日も見られ、精神的にも限界なのかなと思わされます。まあ打率が.352となったのは良しとしましょう。しかしオルドニェスも4の2で.357と打率を上げています。レベル高いなー。
エリミネーション・ナンバーが着実に減っていますね。西地区が6、ワイルドカードが8です。まぁ念のため。
日程です。同地区対決が7試合ほどロードで行われます。まずはマカフィー・コロシアムでオークランド・アスレティックス (OAK) と3試合を、それからエインジェル・ステイディアムを舞台にロサンジェルス・エインジェルズ (LAA) と4試合を戦います。順当に行くと、つい1ヶ月前まで優勝争いをしていた LAA に見事に地元優勝を献上してしまう計算になります。